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<戸締り注意報>

 日本語でもひらがなで書くと分からない言葉ってありますよね。特に沖縄生まれ沖縄育ちの僕など、「はし」と「はし」と「はし」と「はし」の違いが全然、分かりません。

 沖縄でも同じ様に聞こえるけど、微妙なアクセントの違いでまったく意味の違う言葉がいくつかあります。使い方を間違えると時によっては目が点になる場面も・・・。「トー!」と強く切って言うと、「ストップ」、「そこまで」という意味で、それを最後の方を間延びして「ト〜」と言うと「ゆっくり」、「すこしづつ」、「その調子」とかいう意味になります。大抵はどちらも「ト」を2つ3つ続けて、「トー!トー!」とか「ト〜ト〜ト〜」とか言うのが多いようです。

 私の先輩で気さくな新ちゃん、いつも某居酒屋に出没して常連さんからは影の主と呼ばれています。その優しい人柄で、今では新ちゃんを目当てにその居酒屋を訪ねてくる観光客も多く、特に若者の間では「沖縄の親父」とか呼ばれて、年に何回かツアーを組んで新ちゃんに会いに来るほどの人気振り。新ちゃんが来ると、「息子の代では店を新ちゃんに乗っ取られるのでは・・・」と憂鬱そうなオーナーの顔が少し気に掛かるのですが・・・。

 無くて七癖で、その新ちゃんにも面白いクセがあるのです。

 まず、一人でカウンターにポツンと座っている客(大抵は情報誌を片手の一人旅の観光客)を見つけると絶対、ヌガーサない(逃さない、許さないという意味で、おせっかいをやくという事)。博識で話もウイットに富んでいるし、酔ってもそこそこに紳士だし、しかも気前が良い!

 酔ってくると(店に入ってくる時から既に酔っているのがほとんどだが・・・)自分の泡盛を人に振舞うのが次の良いクセ。その次に「トー!」と方言で言わないと溢れても絶対に注ぐのを止めない!

 旅先で初めて会ったとても親切なおじ様に振舞い酒を頂き、しごく恐縮している若い観光客が、水割りグラスの半分くらいまで注がれた泡盛を見て「有難うございます。大変すみません。」と言っても聞こえない。8分目くらいから少し心配そうに「あの〜、もう結構ですので」と言ってもドボドボドボ。「あ!あ!あ!溢れちまいますよ!」と言っても知らぬ振り(もっとも、溢れる段になると若干、注ぐ勢いは弱くなりますが)。

 「きゃー、このおじさん、訳わかんない」「誰か、誰か止めて」と、この頃になると回りの皆もニヤニヤ。そこでつかさずこの私めが、「ここではね、お嬢さん、ストップと言う代わりにトー!言わなければトー!まんないよ」親切にしかもゆっくりと説明して上げるのです。しかしこのお嬢さん、まだ「トー!」と「ト〜」の違いが解らない。口から出た言葉が「ト〜ト〜」。これじゃ〜まだまだト〜まんない。

 更に眼を点にしてその違いの説明を聞いていたお嬢さん、おもむろに「トー!トー!トー!トー!トー!トー!トー!トー!トー!トー」と十回(一応、ダじゃれ)も言いました。同じ「ト」の使い方でも「!」で締めるのか「〜」で締めるのかによって全然意味が違ってくるのです。

 テーブルの上は水浸しならぬ泡盛浸し。「どうりで同じ泡盛を飲んでも新ちゃんの勘定がいつも高い訳だ」と気が付いた私でした。と同時に、先ほどのマスターの憂鬱そうな顔は「いつも来てくれる新ちゃんから溢れた泡盛代も取って悪い!」と云う事だったのだと悟った私でもありました。気のいい仲間に乾杯!そして新ちゃんと飲むときは「ト」締りにご注意!

 蛇足:新ちゃんが私に泡盛を注いでくれるなら、もっともっと大き目のグラスに変え「ト〜ト〜ト〜ト〜ト〜ト〜ト〜ト〜ト〜ト〜」と言うのにな〜。

おさむ = 文

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